詩集アフリカ シュルレアリスム編

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目次
まぼろし/  新世界/ 特異点/ アフリカ/ 銀の糸/ 約束の門/
開港記念日/ 街角/ 触発/ 港街/ 月と舟/ シンフォニー/
永遠/ 幻夢/ 恋歌/ クリスマス スノウ/ パステル/ 恋というものは/
酔いどれ/ 恋歌の終りに/ 秋の印象/ サラブレッド/ 宿命/
南東から来た男/ さよならピエロ/ 休息の地/ エアトレイン/
埠頭にて/ 坂道/ 生きる/ お墓参り/ 川/ 春の訪れ/ 春に/ 
宝島/ プロローグ/ 神の鳥の歌/ カオス/ 私はツバメ/ 
コラージュ/ ニュージェネレーション/ フラスコ/ アトモスフィア/ 
真夜中の子供達/ ベドラム/ ニカボーイ/ メランコリア/ 
フィオレンティーナ/ 真実と太陽/ 神よ/ 異邦人/ 聖域/ 
希望/ 地上

以下、この詩集後半シュルレアリスムの部を紹介していきます。
 



Photo by Alie
http://alie.jp/







           プロローグ


 見よ 太陽が昇り始めた

 新しい憧れが海の向こうからやって来る

 あらゆる窓と扉を開け放ち

 燃えるような魂が解き放たれる

 見よ 太陽が昇り始めた

 新しい季節が歌い始める

 星は全て落ちてしまったけれど

 見よ 太陽が昇り始める



           或る鳥の歌


 いまだ見たことのない未知の読者よ

 時 至るのを待てよ

 地平から昇る夜明けの時を待てよ

 私 太陽に向かって心痛みながら羽を広げる

 それは光と風に心奪われた肉体の運命だ

 魂 地平の果てに浮かぶ湖の光の瞬きを見てとるに

 それを目から心臓に流し込む

 また 時止まらんとする時よ

 湖からすっくとのびる大樹に降り立ち

 羽の震えを止めようと休む時に

 私 真紅の果実に虫が蠢き

 ただ それを注視するがごとく

 片足だけで枝に止まっている



           私はツバメ 


 水が反射しているのか 
 
 黒曜石が反射しているのか
 
 判らなくなった森の夜明け
 
 陽の光は全ての物に降り注ぎ
 
 瞳を 感情を かき乱す
 
 この風景の中を あるいはこの物語の中を
 
 疾走する奴はいったい何者か?
 
 午後には森の吐く息が 鳥の目をくらまし 羽を濡らす
 
 彼女は羽の濡れたまま 必死に羽ばたくのだが
 
 上昇気流が無造作に小さな体を 天高く放り出す
 
 その非情な行為に 彼女は為す術もなく
 
 自然に生きる事に
 
 空を飛び続ける希望に
 
 歌を口ずさむ喜びに
 
 肉体ごと奪われる
 
 森を歩いていた少年は霧の中
 
 目の前に突然小鳥が落ちてくるのを
 
 確かに目撃したのだが
 
 彼女の気持ちまでは解るまい



           フラスコ


 まだ遠き春に 船の小さく遠ざかるのを見る

 水溜りに張った氷は薄く

 びっしりと斜めにひび割れ

 人の踏み付けて通り過ぎた静けさよ

 木々は寒々と空を見上げ

 風に揺れているというよりも

 体全体でもがいていて

 地面から抜け出ようとしているよう

 何かにいたたまれず 揺れに揺れ

 大地からもがき 抜け出ようとしているよう

 風はというと チクンと冷んやりしていて

 宙を駆けめぐり 駆けめぐる

 風の感触を失ってしまった皮膚は

 ざらざらと乾き切っていて

 水を垂らすと よくよく冷たく

 疲れきった肉体に 吸い込まれるのを感じる

 腕の真ん中あたりの皮膚に いよいよと感じる




           アトモスフィア


 夕焼け空の下 砂利道を

 自転車乗って 漕いでます

 峠の道は 紅葉が始まり

 とても 空気が澄んでます

 キーコ キーコ 音がします

 鍾乳洞を横切ると

 どこからか ささやき声が聞こえてくるようです

 思わず体が揺れてきます

 やがて 闇が体を包むように訪れると

 星が静かに見えてきます

 星の光を体に浴びながら

 坂道を下ると

 いつしか 見知らぬ町なかを走っていて

 ある 家の前で止まります

 家の前では灯りが暗く点っているのですが、なにかしらいい匂いが漂ってきます。
 門の傍らには、私を迎えるように、たたずんでいる人がいました。
 見たこともない女の人ですが、何か、会った事のあるような、ないような、不思議な感じです。
「おかえりなさい」と言われました。
「ただいま」と答えました。
 なぜか、二人並んで家の中に入って行くのでした。



           真夜中の子供達



 夜のとばりが静かに降りて、深い眠りに付く。
 木々のざわめきと人々の足音はだんだんと遠くに聞こえ、浮かび上がる様々な思い出。

 魂を信じている子供

 母親が迎えに来ない雨の日

 下校の鐘の音

 誰もいない校庭

 引越していった友達

 手から離れた風船

 拾われる事もなく 凍え死んでいった仔猫

 殴られた頬

 誰にも言えない罪

 枯れてしまった椿

 傷だらけの老婆の手

 泣く事が出来なかったお葬式

 打ち上げられた船の残骸

 冬の防波堤で一人震えていた夜

 すれちがった少女の瞳

 かなわぬ夢 理解してくれた気持ち・・・・・・

 泣きながら目が覚めると、世界は終わりに近づいていて、母親が動かしているミシンの音だけが、部屋中に鳴り響いているのだった。



          メランコリア




 ひときわ街並を抜けて

 海岸線を走り続ける

 夜は暗く 海を黒く浮かび上がらせる

 アナログのラジオから聞こえてくる

 ニュース速報

 風が強まる事を知らせている

 誰もいない寂しい部屋には 電話が鳴り続け

 埠頭でトランペットを吹いている青年は 帰り支度を始める

 厚い雲に覆われた海から浮かび上がる夜明け

 トンネルのライトが薄くなりだし

 海は荒れ始め

 風に震える窓ガラスに 朝の訪れを知る君は

 頬杖をついて僕を待っていてくれる



          異邦人    


  
なだらかな斜面の丘を上りきると、すでに雪が降り積もっていて、一列の連なる足跡が地平線に続いている。
 城壁のまわりはひんやりと冷たく、石畳の道から中に入れる。
 中には寺院があり、窓にはめ込まれたステンドグラスには光が足らず、天井を支えている柱は曲線を描き、しっかりと彫刻が施されている。
 そこから夜明けの方角にずっと回廊が続いていて、西に石段が、林立する石柱よりも高く伸び、アーチ型の門よりはっきり見える。
 庭園の中央には噴水が造られていて、天使の彫刻の手に鐘が、その指先は日没を指している。
 そこで遊び疲れた子供が溜め息をついている。走り去った馬のいななきを聞いている。
 円を描くように置かれている丸石は、石段から離れてはいるが、石柱の影が薄く落ちている。
 いつのまに現れたのか、回教徒達が水の張った壺の中を覗きこんでいると、老バプテスマは地下より湧き出るはずの水を待ち望んでいる。
 この場所には陽が差さない。
 つまり、人間の住む世界と神のひそむ世界の狭間で、荷車を引いて都を目指す。




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